kur0cky

こんにちは

サウナーの皆さん,論文読んでますか?

こんにちは.表参道で働くサウナーことkur0ckyです. 最近は,武蔵小山温泉 清水湯 によく行きます.

本記事は,Sansan Advent Calendar 2020 の5日目の記事です.

それではやっていきます.

長めの前書き

突然ですが,サウナは好きですか?僕は大好きです.

サウナって気持ちいいですよね. 寒いとき,暑いとき,仕事が大変なとき,嬉しいことがあったとき,報われない感情に身を焦がすとき... 体調さえ良ければ,サウナはどんな状況でも人生を華やかに彩り,「ととのい」の世界へと私たちを誘ってくれます.

ところで,皆さんはサウナに入っているとき何を考えますか? テレビを見ていますか? 時計を眺めていますか? それとも,滴る汗に思いを馳せ,瞑想しているでしょうか. 人生について考えるのも良いですね.

ここまででお気づきの方も多いでしょうが,サウナを楽しむ術が多ければ多いほど, 一部の隙もなくサウナを堪能することができるようになります. そこでこの記事では一つ,サウナをより楽しむ方法をお伝えしたいと思います.

それは,「サウナに関連する論文を読む」ことです.

あまり知られていないことですが,サウナについても様々な研究が存在し,たくさんの学術論文が出版されています. ためしに,Google Scholar で "sauna bathing" と検索してみてください. 蓄積されてきた研究の数に驚くことでしょう. これらの論文を読み,サウナについてより深くを知ることで,サウナをより楽しめるようになります. サウナにはどのような効果があるのか,なぜ気持ちいいのか,サウナ文化はどのように醸成されてきたのか,色々な角度からサウナを知ることができます. これはいうなれば,「サウナ鑑賞」です. 音楽や絵画で考えると分かりやすいと思います. 背景について知り,様々なものを何度も体験し,素養を身につけることが味わいや楽しみに幅を持たせるのです.

ここで一つ注意ですが,たとえサウナの負の側面に関する議論を見つけても,決して気を落とさないでください. そうです. サウナが好きな人は,健康に良かろうが悪かろうがサウナに入ってしまうでしょう. どうせなら不安を感じながらサウナに入るよりも,楽しみながら入るほうが気持ちいいに決まってます. あくまでもサウナを楽しむことが目的ということを忘れないでください.

それでは,みなさまのサウナ生活がより豊かになる助けとなるため,サウナに関連する様々な研究を紹介していきます.

サウナ研究の紹介

1. サウナと健康の関連について

サウナの研究トピックとして最も目にするのは,やはり健康との関連です. サウナが気持ちの良いことは間違いないですが,健康への善し悪しは誰もが知りたいところなのでしょう. 最近では,Laukkanen et al. (2018) や Hussain et al. (2019) などのサーベイ論文も出てきており,より網羅的に知りたい方はこれらを読むことをおすすめします.

さて,これらのサーベイを見ると,サウナが健康に及ぼす影響のほとんどが,「身体を温めることによる血流や脈拍の増加」,もしくは「高温による交感神経系への刺激」に由来しているようです. そこでこの章では,特にこの2点に絞り,より簡潔(しかし雑)な紹介をしていきます.

血流や脈拍,血圧の上昇

S.Ketelhut and R.G.Ketelhut (2019) は,サウナ中とサウナ後の血圧と心拍数の変化を調査しています(ただしサンプルサイズは19と少ない). フィンランドで一般的な約80℃のサウナでは,心拍数は分間120 ~ 150まで上昇するとともに,有意に血圧が上昇するようです (p < 0.01). 中程度の運動に相当するような負荷です. 一方で,サウナ後は血圧は急速に低下し,入浴後30分でも,入浴前と比べて有意に低くなるようです(p < 0.01). 別の研究では,短期的な血圧低下だけでなく,サウナが長期的な血圧の低下さえ促し,心血管の機能を向上させることを示唆しています (Lee et al., 2020).

継続的なサウナ習慣による長期的な血圧への影響を調査したものはどうしても限られてしまいますが,私の知る範囲で2つ紹介します.

Zaccardi et al. (2015) は1621人の男性を24.7年間にわたり追跡し,頻繁に入浴(週4~7回)する男性は,高血圧発症リスクが47%も減少することを示しています. 標本は一般募集で無作為標本ではなく一般募集ですが,アルコール摂取量や経済力,心肺機能 (CRF) などいくつかの交絡因子を調整していました. どうやら,定期的なサウナ入浴は全身血圧の低下に効く可能性がありそうです.

Laukkanen et al. (2020)は,20.7年間にわたり2315人のフィンランド人を追跡し,サウナの入浴頻度・入浴時間と,心突然死・冠動脈性心疾患による死亡・心血管疾患による死亡との関連を調べています. 結果として,上記のすべてのリスクが,サウナの入浴頻度が高いほど低下することを示しています.

なんだか,とにかく心臓の血管には良さそうですね.週4回以上の入浴はハードですが...

交感神経系への刺激

サウナは多数のホルモンに作用するようです. たとえば,コルチゾール血漿レニン,ノルエピネフリンの分泌が増加することが知られています (Laukkanen et al., 2018). コルチゾールはタンパク質の代謝や脂肪の分解の促進,炎症を抑える働きがあり,ステロイド系の炎症薬にも使われます. また,ノルエピネフリンは交感神経を活性化する代表的な神経伝達物質で,特にストレスを感じた時や運動時に放出されます. 筆舌に尽くしがたい「ととのい」の快楽とも関係があるのでしょうか(謎).

最近のサーベイとしては,サウナとホルモンの関係は Huhtaniemi and Laukkanen (2020) によくまとまっています. これによると,サウナに慣れている人はノルエピネフリンをより多く分泌する傾向にあること,発汗により利尿を阻害するホルモンが増加することなどが参考文献とともに示されています. ただし,これらのホルモン反応は短いものであって,入浴後はすぐに正常に戻るそうです.

私としても気になる懸念としては,高温による精子への悪影響があります. しかしHuhtaniemi and Laukkanen (2020)は,特にサウナ経験のない男性では精子の生産が減少するが,サウナ習慣と生殖能力の低下は関連しないことにも言及しています. これは嬉しいですね.

特に運動後のサウナに着目した研究に Rissanen et al. (2020) があります. サウナ自体が負荷の高い運動のようなもので,次のトレーニング前24時間の入浴は推奨されないとまとめています. 十分余裕のある時に入浴したいですね.

2. コロナウイルスによるサウナ習慣への影響

驚くべきことに,サウナとコロナウイルスをテーマにした論文が既に出版されています. その中から1つ,"Sauna bathing frequency in Finland and the impact of COVID-19" (Likkanen and Laukkanen, 2020) という論文を紹介します

この論文では,COVID-19(コロナウイルス)の流行によって,フィンランド人のサウナ入浴頻度がどの程度影響を受けたかを調査しています.

目的

フィンランドは,世界でもっともサウナ文化の進んだ国です. しかしCOVID-19の流行により,フィンランドの公衆サウナも大規模な閉鎖を余儀なくされてしまいました. そこでこの論文では,あまり知られてこなかったフィンランド人のサウナ入浴頻度と,コロナ禍におけるその変化を調査することを目的としています.

方法

2020年5月,市場調査会社 Bilendii によって抽出された1000人のフィンランド人を対象に,アンケート調査を実施しています. 標本は性別,場所,年齢,収入,職業,住居の種類などを鑑み,フィンランド人の良い代表となるように調整がとられているそうです. 調査項目は,入浴頻度,考えられる変化,その理由,感染への懸念などです.

結果

コロナ禍以前では,なんと60%のフィンランド人が週に1度はサウナに入っていました. 中央値は週に2~3回です. さすがサウナ大国フィンランドですね.

サウナの入浴頻度に大きく関わるのは,住居の種類です. 89%の人が個人所有のサウナを利用していたが,block building(マンションやアパート?)では 64%に留まるそう. 一方で戸建住宅に住んでいる人は,性別に関係なく,週4回以上入浴する人が block building に住んでいる人よりも約3倍多い結果となっています(12.6%と4.4%).

この住宅による傾向は,コロナ禍でも顕著になっています. その結果を下表に引用しました.

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コロナ禍に入ると,回答者の23%は入浴頻度を減らしていますが,そのうちの81%は block building の居住者です. 一方で,より頻繁に入浴するするようになった11%の回答者のうち,戸建てや長屋に住んでいる人は59%です.

また,公衆サウナの閉鎖に関しては,74%が同意しているそうです. 感染リスクは一定感じながらも,大半の人は家にサウナがあるので我関せずということでしょうか.

感想

恐るべし,フィンランド

まさにサウナ天国ですね. なんと89%のフィンランド人が personal なサウナにアクセスできるそうです. 羨ましい限り... これだけ環境が整っているのであれば,サウナ文化が衰退することはなさそうですね. 元々どのような公衆サウナがあったのかは興味深いところですが,かえって日本の方が充実していたのかもしれません.

おわりに

サウナーがサウナ論文を読む意義と,いくつかのサウナ研究を紹介しました. サウナに入りながら,自分の身体に何が起きているのかを想像すると,ワクワクしてきますね. 本場フィンランドでは一般的な personal サウナに恋い焦がれるのも良いですね. クリスマスはイルミネーションの綺麗なサウナでも探して行ってみようかと思います.

それでは,みなさんのサウナ人生が少しでも豊かにならんことを.

参考文献

  • Huhtaniemi, I. T., & Laukkanen, J. A. (2020). Endocrine effects of sauna bath. Current Opinion in Endocrine and Metabolic Research, 11, 15-20.
  • Hussain, J. N., Greaves, R. F., & Cohen, M. M. (2019). A hot topic for health: Results of the Global Sauna Survey. Complementary therapies in medicine, 44, 223-234.
  • Ketelhut, S., & Ketelhut, R. G. (2019). The blood pressure and heart rate during sauna bath correspond to cardiac responses during submaximal dynamic exercise. Complementary therapies in medicine, 44, 218-222.
  • Laukkanen, T., Khan, H., Zaccardi, F., & Laukkanen, J. A. (2015). Association between sauna bathing and fatal cardiovascular and all-cause mortality events. JAMA internal medicine, 175(4), 542-548.
  • Laukkanen, J. A., Laukkanen, T., & Kunutsor, S. K. (2018, August). Cardiovascular and other health benefits of sauna bathing: a review of the evidence. In Mayo clinic proceedings (Vol. 93, No. 8, pp. 1111-1121). Elsevier.
  • Lee, E., Willeit, P., Laukkanen, T., Kunutsor, S. K., Zaccardi, F., Khan, H., & Laukkanen, J. A. (2020). Acute effects of exercise and sauna as a single intervention on arterial compliance. European journal of preventive cardiology, 27(10), 1104-1107.
  • Liikkanen, L. A., & Laukkanen, J. A. (2020). Sauna bathing frequency in Finland and the impact of COVID-19. Complementary Therapies in Medicine, 56, 102594.
  • Rissanen, J. A., Häkkinen, A., Laukkanen, J., Kraemer, W. J., & Häkkinen, K. (2020). Acute Neuromuscular and Hormonal Responses to Different Exercise Loadings Followed by a Sauna. The Journal of Strength & Conditioning Research, 34(2), 313-322.
  • Zaccardi, F., Laukkanen, T., Willeit, P., Kunutsor, S. K., Kauhanen, J., & Laukkanen, J. A. (2017). Sauna bathing and incident hypertension: a prospective cohort study. American journal of hypertension, 30(11), 1120-1125.